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「紙の本を読みなよ」と怪物は語りかけ、名前のある書物は僕達を覗き込む

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「紙の本を読みなよ。電子書籍は味気ない」はアニメPSYCHO-PASSの悪役(ヒール)である槙島聖護の台詞です。しばらく前に、ハヤカワ文庫のフェアでも使われていましたね。

舞台は、近未来のディストピア。シビュラ・システムに管理されたPSYCHO-PASSの世界では、人々は善悪の判断すらも機械に委ねています。かほどに技術が進んだ世界では、紙の本を読むことすらも槙島聖護の「異常さ」を描写する役割を果たします。

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僕たちに一番似ているのは、槙島聖護だった

PSYCHO-PASSが「ディストピアもの」として異色なのは、読み手が一貫して共感を寄せられる主人公がいないことです。主人公の常守朱は管理する側の人間であり、ディストピアに反旗を翻す槙島聖護は平気で殺人を犯す「サイコパス」として描かれています。

これが通常のディストピアものならば僕たちはディストピアに対する「部外者」である主人公に同化し、おかしな方向に発展してしまった社会に対する反感を共有すれば話は済みます。が、脚本家である虚淵玄はそれを許しません。

アニメを観ている僕たちは誰にも完全な共感を寄せられないままに物語を読み進めていくことになります。常守朱は悩みながらも秩序を守る立場から降りず、槙島聖護は時に共感を誘うような言葉を投げかけながら殺人によって僕達を突き放します。

PSYCHO-PASSの世界における一番僕達に近い存在は、実は槙島聖護なのです。もちろん人命の扱いに関しては別ですが、ディストピアにおける価値観が我々のそれと異なっていればいるほど、反抗者としての槙島聖護が我々と近い考えを持った人間として際立ちます。

常守朱に共感しようとすれば世界を疑うことになり、槙島聖護に共感しようとすれば自分を疑うことになる。PSYCHO-PASSの物語は、そうした構造を持っています。

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紙の本と電子書籍と我々

翻って我々の生きる現代では、まさに電子書籍が紙の本を駆逐しようとしています。おそらく紙の本は完全にはなくならないでしょうが、それでも電子書籍がシェアを増やし、本棚のない家が普通になる。そのような未来が僕達には見えています。

ディストピアで「紙の本を読みなよ」と呟く槙島聖護の言葉は、我々の耳にどう響くのでしょうか?「やっぱり紙の本がいい」と思っている人にとっては共感を呼び起こされる言葉でしょうが、その言葉を発した相手は人の命を何とも思わないサイコパスです。

「紙の本なんて時代遅れだ、全て電子書籍になればいい」と思っている人は戯言と片付けるのでしょうか。しかし無邪気に技術の進歩を崇めるその人が向かうのは、ひょっとすると意志の自由が尊重されないディストピアへの道なのかもしれません。

そして人間の終わり

内田樹先生が何かの本で言っていたのですが、電子書籍と紙の本の最も大きな違いは「電子書籍は本棚から我々を威圧しないこと」です。

書籍が我々を威圧するとはどういうことか。本棚に並んでいる書物は、僕達に「この本に相応しい知性のある人間たらねばならない」という無意識のプレッシャーを与えます。特に「積ん読」になっている本は「いつ俺のことを手に取って読むのだ」「いつお前は俺に相応しい人間になるのだ」と僕達を責め苛みます。

我々が書物を眺めるとき、書物もまた我々を覗き込んでいるのです。

これは僕の実感ともマッチしています。僕の本棚には未読のままの「資本論」が積んであり、僕はそれを見る度に、いつかこれを読まなければいけない、そしてマルクスの明察を我が物にしなければならない、というプレッシャーを感じています。

Kindleに入った電子書籍は積ん読しておくのが非常に楽です。むしろ積んでいるという意識すらなく容易に存在を忘れ去ることが出来ます。

そこではあらゆる本がフラットに並んでおり、夏目漱石も森鴎外も僕達を圧することはありません。ただそこにあるだけです。

このまま電子書籍が紙の本を置き換えていけば、重みのある本によって人間が威圧され、その結果として知性が育つこともあるという事実は忘れ去られるでしょう。そしてその感覚を脳に留めている人間もいなくなるのでしょう。

それは人間のあり方の一つの終わりだと僕には思われます。「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」とかつてジャン・ポール・サルトルに反旗を翻した若き哲学者は言いました。人間が終わっても、人類は続くのです。

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まとめ

あーアニメの2期見ないと。